地球上の生命を育む基本的な3要素として「空気、水、光」があげられます。いずれも植物の光合成に必須であり、どれが欠けても私たち含め動植物は生存することはできません。空気は音を伝え水は波を生じ巨視的には波動性を示しますが微視的には酸素、窒素、水などの原子や分子という粒子により構成されています。光は太陽光発電に使われたり眼から取り入れる情報の源であり、スリットによる明暗の干渉は光の波動性を示します。空気、水と同様微視的には粒子により構成されています。空気、水の粒子と異なることは極めて微小な「エネルギーの粒子」であることです。光の粒子はフォトンまたは光子と呼ばれます。フォトンは電磁波の波長で決められるエネルギーの最小単位でありジュールで表され1秒単位ではワットとなります。青から赤色の可視光で1ワットのエネルギーを得るには一秒当りおよそ10の20乘個のフォトンが必要となります。ちなみに太陽光エネルギーは1平方メートル当り約1キロワットと言われています。フォトンは「ボソン」と呼ばれる電磁場の相互作用に由来する素粒子の一種であり、光は最も身近な「見える素粒子」でもあります。フォトン一個をシングルフォトンと呼びますが、発光源である原子分子の量子的特性を含んでおりバイオメディカルにおけるイメージングや物性解析に利用することができます。近年は 量子通信など次世代技術としての応用なども盛んに研究開発されています。
フォトン検出
シングルフォトンはエネルギー粒子ですが、微小なためそのままで熱または電気信号として観察することはできません。光電面または半導体のPN接合部でフォトンを光電子として電荷へ変換する必要があります。更に単一電子は電荷としてあまりに微小なためアンプで電圧へ増幅してもノイズに埋もれてしまいます。そこでアバランシェ効果またはガイガーモードと呼ばれる単一電子を約100万倍へ増幅可能な光電素子が必要となります。フォトンが多数ある場合は光電流として観察することは可能ですが、シングルフォトン検出にはアバランシェ効果を有するフォトマルチプライヤ(PMT)かシリコンフォトマルチプライヤ(SiPM)が用いられます。PMTは光電面で変換された電子を多段の電極で真空中で増幅します。このため電子は真空中を数10mm走行することになりこれによりパルス幅が制約されます。SiPMはPN接合で生じた光電子をミクロンの距離で増幅しアバランシェプロセスはピコ秒単位ですが、電流として流れた電子を補充するため50ns程度のデッドタイム(不感時間)が生じます。シングルフォトン信号は基本的に“0”と“1”のデジタルインパルス信号となります。カウント計測のダイナミックレンジはパルス幅とダークカウントと呼ばれる熱雑音によって決まります。従来は10~100nsのパルス幅またはデッドタイムを超高速信号処理によりサブナノ秒へ短縮、電子冷却により熱雑音を大幅に低減し6桁以上のフォトン計測が可能となりました。
フォトン計測応用
フォトン計測の特徴はフォトンの持つデジタル性により光強度が定量化されること、光電流検出よりも2~3桁高感度であること、サブナノ秒のパルスによるピコ秒分解能の時間計測が可能なことなどですが、最新の超高速エレクトロニクスとソフトウエアが必要となります。シングルチャンネル計測においてはレーザー励起による蛍光・ラマン物性測定などが行えますが、従来の光学ガラス、光学素子などでは高レベルの自家蛍光が観測されます。フォトン計測の加算性のため信号とノイズ成分を分離することは可能ですが、ノイズを低減するため材料と光学系の革新が求められます。最近はメタ構造材料が開発されシングルフォトンに適した自家蛍光及び迷光フリーの光学系の見通しが得られていますが、継続的に改善をしていく必要があります。これまでノイズや測定限界とされていたピコワットにもミリオンフォトンが含まれており有用な情報を如何に発掘するかがフォトン計測の課題となります。また計測限界はフォトン統計によることがわかってきており、量子性や不確定性の理解が重要となってきております。